今や日本で翡翠が取れることは、承知の事実ですが、つい最近まで日本に翡翠の産地があることは誰も知りませんでした。
実は昭和初期まで翡翠は、ミャンマーが唯一の産地と考えられており、誰も日本に翡翠の産地があるなんて、誰も考えてもいなかったのです。
しかし、1938年にひょんなことから新潟県の糸魚川市が翡翠の産地であることが発見されたのですが、その再発見の鍵となったのが”神話”だってご存知でしたか？
太古のロマンがきかっけで再発見された糸魚川翡翠
糸魚川翡翠は1938年に発見されるまで、誰も知りませんでした。
しかし、それまでも翡翠は古代人の遺跡などから発掘され、一部の人は「もしかしたら、翡翠の産地は日本にあるのでは？」と考えていましたが、これと言う決定打を見つけられずにいました。
そんな昭和13年（1938）。日本の詩人・歌人・評論家として知られる相馬 御風（そうま ぎょふう）が知人の鎌上 竹雄氏に「越の国（こしのくに）で採れたという翡翠の勾玉は、きっとこの山奥（糸魚川）のどこかにある」と話したことが始まりだとされています。
相馬御風から、翡翠の話を聞いた鎌上竹雄はその話を小滝村（現在の糸魚川市小滝）に住む伊藤さんにしたところ、伊藤さんもその話にたいへん興味を持ち、自分でも翡翠の原石を探したり、狩猟客のガイドや山小屋生活者・山案内人などに「翡翠の原石」があったら、教えるようにお願いをしたりしていたそうです。
そんな伊藤さんの苦労が実を結び、同年8月12日、小滝を流れる小滝川にそそぐ土倉沢の滝壷で伊藤さんは「緑色のきれいな石」を見つけたのでした。
そして、伊藤さんが小滝川で見つけた「緑色のきれいな石」は東北大学理学部岩石鉱物鉱床学教室に送られ、その「緑色のきれいな石」が翡翠であることが判明。
後日、東北大学理学部岩石鉱物鉱床学教室の河野氏による現地調査によって、小滝川の河原にヒスイの岩塊が多数あることが確認され、糸魚川市に翡翠の産地があることが再発見されたのです。
翡翠発見につながった神話の姫は翡翠と深い関係がある人物だった！
伊東さんが糸魚川翡翠の原石を見つけるきっかけになった、相馬御風が鎌上氏に話した伝説――神話と言っても差し支えないでしょう。
その神話は太古の昔糸魚川市を治めていた人物「奴奈川姫（ヌナカワヒメ）」翡翠の勾玉を身につけ、その地を治めていたという話でした。
奴奈川姫とは日本神話の神の1人であり、『日本書紀』には登場しない『古事記』『出雲風土記（いずもふどき）』などにのみ表れる大国主命（オオクニヌシノミコト）と深いかかわりがある――大国主命の妻だったとされる人物です。
もともと彼女は、現在の福井県敦賀市から山形県庄内地方にあった高志国（こしのくに）の姫であり、翡翠の勾玉を身につけその霊力を発揮し、国を統治していたとされています。
この奴奈川姫が実在したかどうかは、今となっては定かではありませんが、少なくとも翡翠と深い関係がある人物であったことだけは間違いありません。
なぜならば奴奈川姫の「奴（ぬ）」は「八尺瓊勾玉（やさかにのまがたま）」に表れる「瓊（ぬ）」であり。
この「瓊（ぬ）」は赤い玉・青い玉・美しい玉の総称であり、翡翠の玉を意味します。
したがって奴奈川姫とは《翡翠の玉の川を支配する姫》という、翡翠と深い関係にある姫であったということが、伺えるのです。
そして、太古の越の国（福井県敦賀市から山形県庄内地方の一部）を支配していた姫が国を治めていた場所が糸魚川周辺にあった。
その翡翠と深い関わりあいのある姫が治めていた地――糸魚川に翡翠の産地があったことは、逆説的に考えると何も不思議なことではありません。
ただ、その地域の伝説や古事記にも名を残す神の存在がきっかけとなって、糸魚川翡翠が再発見されたことには、なんだかスピリチュアルなモノを感じずにはいられません。
◆奴奈川姫に導かれるようにして見つかった糸魚川翡翠
1500年前に突如として途絶えた翡翠文化と行方不明になった日本の翡翠の産地。
その翡翠文化の復興のきかっけとなった、日本の翡翠の産地が再び見つかった裏には、日本の国造りの神と深い関係を持つ奴奈川姫がいた――ちょっと出来過ぎな話のように思えますが、これらはすべて事実です。
改めて糸魚川翡翠が再発見に至った経緯を振り返ると、相馬御風の歴史的見地や翡翠の原石を見つけた伊藤さんの努力と、もうひとつ何か不思議な力の影響を感じずにはいられません。
そして、1938年に糸魚川翡翠が発見されたことにより、日本の翡翠に対する考え方や捉え方も変わり、多くの人が翡翠が持つパワーを知るようになったことも踏まえて考えると、大げさかもしれませんが、もはやこれは現代日本人に対する奴奈川姫のメッセージなのかもしれません。
果たして、奴奈川姫は現代の私たちに翡翠を通じて、どのようなメッセージを伝えたがっているのか。
このコラムを呼んで、翡翠のことをもっと良く知れば、奴奈川姫の伝えたがっているメッセージをアナタも理解することが出来るかもしれません。